地形図の使い方

 

はじめに

 今は、多くの人が山に登っているときにも携帯電話を持参していますね。山頂から携帯電話で家族や友人と楽しそうに話をしている人をよく見かけます。また、私は山の上からタクシー会社に電話して、麓までタクシーに来てもらう時間を連絡することがあります。誠に便利な世の中になったものです。

 その反面、山に登って下界のことを忘れていても、家からの電話で俗世間の話を聞かされてしまうこともあります。ときにはそれが緊急な用事で、直ぐに下山しなければならない場合があります。このような場合はリーダーに断って、一人で下山することになります。

 また、登山という程のことではなく、低山のハイキングでも事故(遭難)が起きることがあります。パーティの誰かが転んで捻挫や骨折をしたり、急病になったりすることがあります。この場合に、体力のある人が何人もいれば、その人を自分たちで下山させることができますが、中高年のパーティでしかも小人数であれば、それは難しくなります。やむを得ず地元の山岳救助隊に救助を要請することになったとき、携帯電話が通じればよいのですが、山では通じないことが多いものです。この場合には、元気そうな人に緊急に下山してもらうことになります。

 このように、自分のためであっても他人のためであっても、一人か二人で緊急に下山しなければならないはめになることがあります。登ってきた道をそのまま引き返して下ることもありますが、山頂を越えた後ならば予定のコースを皆より先行したり、予定のコースではない近道を下山したりします。

 ところで緊急事態が生じた場合に、山久会の誰もが確実に下山できるでしょうか? いや、確実に下山してもらわなければなりません。しかし、誰もが本当に確実に下山できるかどうか私は気になります。道に迷う人が出るのではないかと心配します。

 登山道は尾根沿いに作られていることが多いものです。当然のことながら、尾根は山頂から麓に向かって途中でいくつにも枝別れしています。従って、登るときには道が合流して頂上に向かって収斂していますので、とにかく高い方に登って行けば頂上に達します。しかし、下るときには道が分岐していて発散していますので、どちらに下るかを正確に判断しないと、全く違った方向に下ってしまいます。例え午前中に登った同じ道を引き返したとしても、注意を払わずに前の人に付いて行くだけだと、分岐でどちらから登ったのか分からなくなります。どこに下っても無事ならば未だ幸いで、途中で道が消えて樹林帯の中に迷いこむことがあります。また、沢に下って滝の上で進退窮まることもあります。最悪の場合は、道のない所を下って足を滑らして転落し、取り返しのつかないことになることもあります。

 警察庁生活安全局地域課から発行された「平成17年中における山岳遭難の概況」というレポートを下記のホームページで見ることができます。

  http--www.npa.go.jp-safetylife-chiiki12-20060705.pdf.

 ここには遭難の原因の統計が載っていますが、道迷いが35%と最も多く、次が滑落の17%です。また、滑落に至る本当の原因が道迷いであることもあるでしょう。このように道迷いが多いのは、地図を持たないで山に登る登山者やハイカーが非常に多いからです。

 雲取山と丹沢・塔の岳でハイカーが地図を持っているかどうかを山と渓谷社が調査したことがあります。その結果、地図を持っていない人が14%だったそうです。これは少なすぎるように私は感じており、多分パーティの中の一人だけでも地図を持っているならば、持っている方にカウントしたのではないかと思います。また、地図を持っている中でも、雑誌のコピーが11%、昭文社の地図などが70%で、地形図は19%でした。

 ここで、山の地図は地形図に限ると私は思います。道迷いが多いのは、地形図を持たないで山に登る人が非常に多いからだと思っております。

 この点から山久会の皆様には山に登るときには必ず地形図を持って戴きたいと考えます。地形図には他の地図にはない情報が多数含まれています。しかし、それを生かせなければ何にもなりません。

 前置きが長くなりましたが、今回の雑文は地形図の使い方について基本的なことを述べてみたいと思っています。                         

 

1.地形図とは

 地形図とは、国土地理院から発行されている地図のことでして、縮尺1万分の1、縮尺2万5千分の1、縮尺5万分の1があり、縮尺2万5千分の1が最も使われています。また、山座同定のために縮尺20万分の1の地勢図も使われます。なお、地形図で縮尺1万分の1は都市部のみで、縮尺2万5千分の1と縮尺5万分の1は日本中を完全に網羅しています。山で使うのも縮尺2万5千分の1が最適であり、日本中で4,339面が作られています。八王子や立川でも大きな書店なら置いてあり、1枚270円です。また、インターネットを使って無料でダウンロードすることも可能です。

 

2.地形図と昭文社の地図との違い

 ハイカーが最も利用している地図は、昭文社発行の山と高原地図です。この地図は北は利尻から南は屋久島まで59種類あり、日本百名山は全て網羅されています。また、多色刷りで見やすく、コースタイム、登山道の状況、バス情報などハイキングのための情報が多数表示されていますから、人気があるのは当然です。また、毎年、改訂版が発行されていて、最新情報が盛り込まれているようです。このように昭文社の地図は便利なところが沢山あり、私も約30枚持っています。

 一方、国土地理院の地形図は3色刷りで、コースタイムなどハイキングのための情報は一切書かれていません。これは前者がハイキングのために作った地図であるのに対し、後者は種々の用途のための地図であってハイキングのために作った地図ではないからです。

 それでも山歩きに用いるのは国土地理院の地形図に限ると思います。

 いくつかの理由がありますが、最大の理由は昭文社の地図は平面的で、国土地理院の地形図は立体的であるからです。言うまでもないことですが、普通の旅行は大体水平方向に二次元的に移動するだけですが、山歩きは水平と高低とに三次元的に移動します。前者は縮尺5万分の1が多いので、等高線が20m間隔で高度がはっきりしません。一方、後者は縮尺2万5千分の1で等高線が10m間隔で高度が明瞭です。この縮尺の違いと等高線の違いは実際に山で地図を利用するときに非常に大きな差になります。

 言い方を変えれば、実際の1000mの距離を、縮尺5万分の1では2cmで表し、縮尺2万5千分の1では4cmで表します。従って、二次元的には地形図は昭文社の地図より4倍の情報が描かれています。更に、等高線は前者が20m間隔、後者が10m間隔で表示されていますので、これを含めると、三次元的には8倍の情報の差になります。

 実際に山を歩いて例えばA山からB山に向かうとき、A山を下って次に登ればB山に着くといった単純なことは少なく、間に名のない小ピークがいくつかあるのが普通です。この小ピークの状況を分かっていないで歩くと、どこがB山なのか分からなくなってしまいます。この点で、昭文社の地図では小ピークを見つけるのは非常に困難です。また、A山の下りやB山の登りの標高差がどの位あるか、また、登りや下りがどの位きついかも判断困難です。

 また、後でも述べますが、昭文社の地図では小さい尾根や沢が不明確であるし、高圧線も書かかれていません。

 このようなことから、山での行動時には地形図でないと役に立ちません。

 なお、これだけの説明だとぴんと来ないかも知れませんが、後で地形図のことをより詳しく説明しますので、次第に理解されると思います。

 但し、昭文社の地図には広い山域が載っていますので、その山域を把握して山行計画を立てるときや、山頂で山座同定のときには役立ちます。また、昭文社の地図はピーク、尾根、峠、沢等の名前に関しても地形図より詳しく載っています。

 従って、計画時には昭文社の地図を参照し、地形図に載っていないピーク等の名前を地形図に書き込めばよいと思います。

 

3.事前準備

 登る山が決まったら、地形図を買いましょう。どの地形図が必要かは、目的のコースが出ているガイドブックに書かれています。また、私の山行案内には必要な地形図を必ず書くことにしています。

 地形図を買ったら、先ず予定の全コースを登山口から下山口まで辿ってみます。現時点ではコースの詳細を把握できないかも知れませんが、取りあえずそれで結構です。何れ分かるようになります。とにかく、地形図で登山口、主要な山頂、下山口の位置を確認しておいて下さい。分からなければ、ガイドブックで調べたり、リーダーに聞いたりして下さい。

 次に、地形図に磁北線を引いてみて下さい。磁北とは磁石の針が指す方向であって、真北(北極の方向)よりずれています。北半球では磁北は地形図の真北より西にずれていて、そのずれ(西偏)は緯度により異なり、地形図の右側にある記号の欄の下の方に角度で表示されています。従って、その角度で左に傾いて引いた線が磁北線であって、引き方は自由です。

 しかし、分度器を使って角度を割り出して線を引こうとすると、製図用の大きな分度器でないと誤差が大きくなり、面倒な作業になります。

 そこで、分度器を使わないで磁北線を引く方法を紹介します。

 先ず、地形図の右下隅を基準点とします。次に、地形図の上辺に右上隅から左に向かって下記の表から得た寸法になるように点を打ち、この点と基準点とを結んだ直線を定規で引けば1本の磁北線が完成します。後は、この線に平行な線を何本か引けばよいのです。線の間隔は4cm空けて引く人が多いようです。これは、4cmが1kmに相当しますから、東西の距離の目安になるからです。

西偏角度(θ)

右上隅からの長さ(mm)

5°30′

35.6

5°40′

36.7

5°50′

37.8

6°00′

38.9

6°10′

40

6°20′

41.1

6°30′

42.1

6°40′

43.3

6°50′

44.3

7°00′

45.4

7°10′

46.5

7°20′

47.6

7°30′

48.7

7°40′

49.8

7°50′

50.9

8°00′

52

8°10′

53.1

8°20′

54.2

8°30′

55.3

 覚える必要はないですが、この表は下記の計算式で求めています。

 D=370tanθ

 但し、D:右上隅からの長さ(mm)

    370:地形図の短辺の長さ(mm)

    θ:西偏角度(度)

 なお、磁北線を地形図の右端から左端まで何本も引くのは面倒ですから、歩くコースとその周辺だけに引けば充分です。

 磁北線が引けたら、これで終わりにしてもよいのですが、私は更に次のようなことをしています。

 等高線を色で区分けします。地形図には等高線が明確に描かれていますが、等高線の高さの値を探すのは少々面倒です。そこで、私は750m、1000m、1250m・・・2500m、2750m、3000mのように250m毎の等高線に色鉛筆で違った色を塗っています。配色はなんでもよいですが、一度決めたら、どの地形図であっても同じ色で塗らないと混乱します。また、200m間隔でも何m間隔でも構いませんが、100m間隔にすると、色が非常に多くなり、塗る手間が大変になります。一方、500m間隔だと荒すぎて、あまり役に立ちません。これによって、等高線の高さを簡単に調べることができます。これも予定のコースとその周辺だけに色塗りすれば充分です。

 なお、等高線に色塗りすると、山の形がある程度分かってきて、尾根や谷がよく分かります。また、歩くコースのアップダウンが大きいか小さいかも分かりますので、コースの難易度を事前に把握できます。

 この後は、歩くコースの左右にある大きな尾根にマーカー(例えば黄色)で線を引いておけば、現在地がより明確になります。

 

4.地形図と一緒に必要な物

 先ず、歩くコースをカバーする地形図を以上の様に準備します。

 但し、地形図は山登りのために作ったものではないので、コースによっては地形図の端の方に道があることがあります。順調に歩いていれば問題は生じませんが、もし隣の地形図の方に迷いこんだ場合には、その場所の地形図がないとどうしようもありません。従って、地形図の端の方にコースがある場合には、無駄になっても隣の地形図も持参すべきです。

 地形図と共に絶対に必要な物にコンパスがあります。コンパスの使い方は後で説明しますが、地形図だけでは半分も役立ちません。コンパスを使って初めて地形図から情報が得られるのです。なお、ここで言うコンパスとはアウトドア用のプレートタイプであって、小学生が使うような丸いタイプのコンパスではありません。

 もう一つ付け加えれば、高度計があると更に有効です。高度計は腕時計に組み込まれているタイプと単独のタイプとがありますが、腕時計のタイプの方が便利だと思います。地形図やコンパスと比べれば高価ですが、何度も山に登る人なら高度計を持参することを勧めます。

 

5.地形図を読む基本

 先ず、縮尺2万5千分の1とはどういうことかを確実に知る必要があります。計算すれば直ぐに分かることですが、1cmが250mに相当し、4cmが1kmに相当します。これを頭にたたき込んで下さい。

 仮に駅やバス停から登山口までの距離が6cmであれば、1.5kmになります。傾斜が緩い山麓では、ザックを背負っていても時速3km位で歩けるでしょう。そうだとすると、1.5kmなら30分かかることになります。

 もっと簡単に考えると、時速3kmとは1kmを20分、即ち250mを5分で歩くことです。地形図の1cmが250mですから、1cmを5分で歩くことになります。従って、6cmあれば30分位掛かるなと見当付けられます。

 但し、以上は水平距離に関する計算なので、登山口までのことでして、登り始めたら全く当てはまりません。山で重要なのは高度差です。一般に300mの高度差を登るのに1時間と言われています。勿論これは目安であって、岩場や雪山では全く違ってきます。また、その人の体力やザックの重さ等によっても大きく左右されます。しかし、300m/1時間と覚えておけば、おおよその見当が付きます。下りは3/4か2/3の時間でよいでしょう。

 また、同じ300mの高度差といっても、きつい斜面も緩い斜面もあります。地形図を見て、等高線が接近している程、急傾斜です。

 例えば、奥多摩の三頭山からの下りに「おつねの泣き坂」という急坂があります。山久会で2回歩いていますので、多くの方がご存じだと思います。ここを猪丸の地形図で見ると、等高線が非常に接近しています。等高線は10m間隔で引かれていますので、この坂の等高線50m分を見てみると、水平距離で約4mmです。1cm(10mm)が250mですから、4mmでは100mになります。従って、この坂の勾配は50m/100mであって、約27度の急傾斜であることが分かります。

 これから登る山の地形図に同じ様な勾配があれば、「おつねの泣き坂」を思い出せばよいと思います。

 次に、等高線の形の基本を覚える必要があります。

 山の中で特徴のある場所は山頂と尾根と谷と鞍部とになります。一方、等高線とは文字通り等しい高さを結んだ線です。従って、地形図で同じ等高線がつながって閉じている所が必ず山頂(ピーク)です。地形図に山の名が載っている山頂であっても、尾根上の無名の小ピークであっても、等高線は必ず閉じています。

 この山頂から麓に向かって凸形に張り出しているのが尾根で、逆に凹形に窪んでいる所が谷(沢)です。地形図で尾根か谷かを判断するのは最も基本的なことですので、間違えないようにして下さい。

 鞍部は尾根上で両方のピークから下った所であり、この鞍部に尾根の横から乗り越える道が付いていれば、峠となります。鞍部では尾根の両側から凸形が張り出してきています。

 実際に地図読みはかなり奥深く、多くの知識を必要としますので、興味のある方は市販の本を読んで勉強してもらうとして、最低限の知識として地形図で山頂、鞍部、尾根、谷を判別できるようにして下さい。

 

6.地形図の使い方

 登山口に着いたら地形図を広げて現在地を確認して下さい。登り始めて道が分岐していれば、その位置も地形図で確認します。道が合流していても同様です。更に、山頂に着く度、鞍部を通る度に地形図で確認し、この作業を下山口まで続けます。

 従って、地形図は直ぐに取り出せるようにウエストバッグやベストのポケットに入れておく必要があります。折角地形図を山に持ってきても、ザックの中に入れっぱなしでは、持っていないのと同じです。

 また、地図は迷ったときに使うものであり、迷っていないときには見る必要がないと思いこんでいる人がいます。しかし、これは大間違いであって、迷っていないときに地図を頻繁に見ていなければ、迷ってから地図を広げても判断できないことが多いものです。

 いくつかの山を越えて行く場合に、名のある山頂に着いたら次の目的の山頂までどのように行くかを確認します。普通のハイキングコースでは道標がありますので、その指示通りに進めば大体は問題ありません(実際には問題がある場合があり、これについては後で述べます)。また、次の山頂までの時間は昭文社の地図やガイドブックを見れば分かります。

 しかし、二つの山頂の間の状況は地形図を見なければ分かりません。

 そこで、地形図を広げて、次に名のある山頂までの間に小ピークがいくつあるか確認します。これを確認しておけば、歩いていて次の山頂までの間のどの辺りを歩いているか見当が付きます。但し、地形図に全ての小ピークが表示されている訳ではなく、10m以下の高度差の小ピークは表示されていません。これは、等高線が10m間隔ですから仕方がありません。また、高度差が10mを越えても20m以下位の小ピークがいくつも続くと、実際には把握するのが非常に難しくなります。

 また、部分的に急坂がある場合があり、このような場合には急坂にかかったら、地形図で今はこの辺りを歩いているのだと見当が付きます。当然、急坂の高度差も分かります。

 反対に、急坂の途中で一旦緩い坂になることがあります。このときも地形図により現在地を確認することができます。

 また、尾根道を歩いているときに目指すピークと思われるピークが見えるときがあります。ある程度で大きなピークには自分が歩いている尾根以外に右か左にも大きな尾根が走っています。この尾根を地形図で確認できれば、あれが目指すピークだと確信することができます。

 その他に、目障りな高圧線もハイキングでは頼りになります。尾根道では高圧線の鉄塔があることが多いので、正確に現在地を確認することができます。但し、尾根に鉄塔がなく、高圧線が尾根の樹木の上空を横断しているときは、気づかないで通り過ぎてしまうことがあります。また、地形図で高圧線が折れ曲がっていれば、折れ曲がった所には必ず鉄塔がありますので、目標にすることができます。

 このように歩いていて、左右に分岐している所に出たらどうしますか?

 道標があればその方向に進めばよいでしょうが、道標がなければ地形図に頼るしかありません。また、道標は完全なものではありません。

 この場合に行うのは地形図を整置することです。整置とは、地形図を水平に置き、コンパスのNが指す方向と地形図に引いた磁北線を合致させることです。これにより、左右のどちらに進めばよいのかが分かります。

 なお、目標の山が樹木で見えないということはよくあることです。まして、下山する部落等は見えない方が普通です。また、登山道は真っ直ぐに延びているような所は殆どなく、曲がりくねっているのが普通です。従って、分岐で一方の道を選んで進んでいるときに、進んでいる方向が本当にこれでよいのか不安になることがあります。

 このようなことがありますので、分岐で予め次の作業をしておくと安心です。先ず、地形図を広げ、現在地(例えば分岐)と目的地(例えば目指す山頂)とにコンパスのプレートの長辺を当てます。この状態でコンパスの回転リングを廻し、回転リングの矢印が磁北線と平行になるようにします。そこで、コンパスを胸の前で水平に持ち、そのまま体を廻して、回転リングの矢印と磁針の北が重なるようにします。この状態で、プレートの矢印が向いている方向が目的地です。登山道はジグザグになっていることが多いので、プレートの矢印の方向に真っ直ぐに進むとは限りませんが、大体のところ矢印の方向に進んでいるならば、ほぼ安心してよいと思います。

 

7.道標について

 道標については、多くの山の中で、特に山久会50回記念で西吾妻山に登ったときの記憶が鮮明に残っています。最後のピークの西大巓に登り着いたとき、下山する道が正面に見え、小さな道標が木に掛かっていて、左右への二つの行く先の地名が書いてありました。しかし、二つの地名がどこなのか、そのとき直ぐに分かりませんでした。また、グランデコスキー場のゴンドラ山頂駅に下る計画でしたが、その地名を示す道標は全くありません。ただ、登ってきた方向からすれば、左の方向に下ることになるので、道標の示す道を左に下ればよいのかなと一瞬思いました。念のため、地形図を広げると、山頂から下る道が3本あることに気づき、コンパスで方向確認したところ、道標がある道とゴンドラ山頂駅とは約90度も方向がずれていることが分かりました。このとき雨が降ってきて視界が悪くなってきましたが、道標がある道とは別の道がある筈だと、コンパスが指すゴンドラ山頂駅の方向を探してみました。登って来たときに見落としたようですが、僅かに戻った所に分岐があり、ここには道標はありませんが、地形図が示すゴンドラ山頂駅の方向に向かっている道がありました。また、先の道標に書いてある地名が予定のコースから大きく外れている場所であることも地形図で確認できました。

 仮にうっかり道標が示す道を左に下ったとすれば、ゴンドラ山麓駅から3kmも離れた場所に下ることになり、途中で真っ暗になる上に、宿からの迎えの車との約束時間を大幅に違えることになってしまいます。また、道標が右に示す道を下ることは考えられませんが、下ったとすれば、その晩の宿の国民宿舎から約15kmも離れたとんでもない所に着いてしまいます。

 西吾妻山は日本百名山なので道標は完備しているだろうと思っていましたので、西大巓のことは全く意外でした。しかし、考えてみると、百名山を志向する人は山を楽しむより山頂を踏めばそれで一丁上がりという人が多く、西吾妻山も白布温泉からリフトで登って往復する簡単なコースを辿る人が大部分なのでしょう。従って、リフトから逆側の道を下る人は少なく、道標が完備していないのも当然かもしれません。

 また、先日は日の出山に登りましたが、上養沢から金比羅尾根の分岐に辿り着いたとき、古い道標に新しいベニヤ板がボルト締めしてあり、ベニヤ板には左右の行き先が書いてありました。このベニヤ板に書いてある行き先が、なんと東西180度間違っていました。このベニヤ板の裏側にも同じ行き先が書いてあり、ベニヤ板を道標に取り付ける際に、裏表を逆にして取り付けたものと思われます。しかし、間違った作業をした人が何故気が付かなかったのか、また、その結果を確認する人がいなかったのか不思議に思いました。更に、耐久性のないベニヤ板を使って、マジックで行く先を書いてあるのも気になりました。


 この道標には御岳山方面が左右に書いてありますので、普通は道標の間違いに気づくでしょう。しかし、ここの地形を全く認識していなくて気軽に登る人の中には、混乱する人がいるかも知れません。

 このように道標はときたま当てにならないことがあります。ひどいときには、いたずらをされたり自然に壊れたりして、ずれた方向を指していることもあります。

 更に、道標に書く地名は有識者達が検討して決めるようなものではなく、一部の人の考えで書かれていようであって、全く統一されていません。私は、道標が指す所は本道を素直に進んだときに辿り着くことができ、しかもあまり遠くにない山頂、峠、登山口等の特徴のある地名にすべきだと考えます。しかし、道標の中には途中で本道から横道に逸れて進んだ場所の地名のみが書いてある場合がしばしばあります。そうすると、本道をそのまま進むつもりでいても、横道に逸れた場所の地名を知らなければ、その道標通りに進んでよいのか判断できません。

 また、道標が指す場所の地名が地形図に載っていない場合もあります。ときによると二つの名で呼ばれる所もあり、自分が知らない地名が道標に書かれていこともあります。このような場合には、道標頼りでは歩けません。

 更に、左右の180度異なる方向を示す地名が同じ地名になっている道標を見たこともあります。このような場合は左右のどちらに進めばよいか道標だけでは判断できません。ここは地形図を見ると、一方の道は大きくカーブして迂回しており、最終的には他方の道の終着地と合流するようになっていました。迂回する所も書かれていればよいのですが、終着地だけが書かれているので、左右とも同じになっていました。

 このように、道標は完全なものではなく、いい加減であったり不明確であったりするものです。

 従って、分岐等では道標があっても必ず地形図で進むべき方向を判断し、道標は自分が判断した方向と合致しているかどうかを確認するために使うようにした方が間違いありません。かく言う私も道標だけを頼りに安易に進むことがしばしばありますので、ときどき反省しています。

 

8.あとがき

 分かっているようなことを長々と書きましたが、私自身が少なくとも年に1回は道迷いをするような状態です。山久会のリーダーを務めるときは、その山の情報をできるだけ多く掴んだ上に緊張して歩いていますので、とんでもない所に進んでしまった経験はありません。勿論、道を間違えたことは何度かありますが、短い距離で引き返すことができています。

 しかし、一人で低山を気楽に歩いているときには、ときたま道迷いをしてしまいます。例えば、前の方に軽装備の人が歩いているとき、なんとなくその人と同じ方向に進み、計画とは全く違った方向に下ってしまったことが数回ありました。その人が自分と同じバス停に下るものだと思いこんでいて、全く地形図を読まなかったからです。また、道標がある分岐を通過したにも拘わらず、分岐も道標も気付かずに別な方向に逸れてしまったこともありました。それでも途中でおかしいなと思うことが多いものですが、低山の場合で道が明確なときは、知らない所に下ってみるのも面白いだろうと、そのまま下ってしまいます。前を歩いている人に聞いてみると、大体が地元の人で、車で来た人や家が近い人でした。ただ、予定外の場所に下ってしまったときには、自分がいる場所を地形図で探さなければなりません。もともと勘違いしていた訳ですから、現在地がなかなか分からないことがあります。現在地が分かっても、バス停が遠く、車道を少なくとも2〜3km余分に歩かなくてはならないことがしばしばあります。

 私は新ハイに属していますので、多数のベテランと山行を共にしています。そして、あえて道のない所を歩くことがしばしばあります。このような所でも、彼らは地形図を読むことにより、僅かな手がかりで進むべき方向を的確に判断しますので、本当に感心してしまいます。彼らを見ていると、いかに自分が未熟であるかを痛感します。それでも未熟なりにも地形図を常によく読み、より安全な山歩きをしたいと考えております。